介護保険の住所地特例制度①
今年80歳になる母が、実家で一人暮らしをしています。幸いにして、今のところ介護の必要はないのですが、今後の生活を考慮して、有料老人ホームなどのサポート体制の整っている高齢者向けの住居への転居を検討することとなりました。現在住んでいる市にはそのような住居が少ないので、近隣の市にある住居も視野に入れて検討しています。転居に伴い市町村が変わった場合は、介護保険の取り扱いはどのようになるのでしょうか。
《回答》
介護保険は市町村単位で実施される制度であるため、転居に伴い住所地の市町村が変わった場合には、原則として転居前の介護保険の被保険者資格を喪失し、新たに転居先の市町村が実施する介護保険の被保険者となります。ただし、一定の施設に入所した場合には「住所地特例」という制度が適用され、引き続き転居前の市町村が実施する介護保険の被保険者となります。
今回は、住所地特例についてみてみましょう。
1.介護保険の概要
介護保険とは、高齢者の介護を社会全体で支えることを目的とする社会保険制度で、制度の実施主体は市町村および特例区(以下「市町村」)です。65歳以上の者は第1号被保険者として、40歳以上65歳未満の者は第2号被保険者として、住民票に記載のある市町村が実施する介護保険に加入します。
介護保険で市町村を保険者とする地域保険の携帯がとられているのは、市町村が高齢者にとって最も身近な行政主体であり、また、高齢者の状況も最も把握できる立場にあるからです。
もっとも、介護保険の全てを市町村が担っているわけではなく、国や都道府県も介護保険の運営に携わり、重層的に支援する体制がとられています。
例えば、介護保険では、民間の事業者等が居宅介護サービス、施設サービスといったサービスを提供しますが、サービス事業者の指定・監督は主に都道府県が行います。ただし、地域密着型サービスや居宅介護支援(ケアマネジメント)等については、市町村がサービス事業者の指定・監督を行います。
また、財政面でも国や都道府県が支援を行います。介護保険では、要介護認定・要支援認定を受けた被保険者が介護サービスを受けると、所得に応じてかかった費用の1~3割を被保険者が負担し、残りが給付としてサービス事業者に支払われますが、給付費には国や都道府県の負担が含まれています。
負担割合は、公費50%のうち国が25%(施設等給付については20%)、都道府県が12.5%(同17.5%)、市町村が12.5%です。
また、保険料50%のうち、第1号被保険者の保険料は23%、第2号被保険者の保険料は27%であり、第2号被保険者の保険料については、介護給付費納付金として各医療保険者から納付されたものが、市町村の給付費に応じて配分されます。
2.保険者となる市町村の原則と例外
前述のように、介護保険では、市町村が保険者となって、当該市町村の区域内に住所がある者が被保険者となるため、転居により住所地の市町村が変わった場合には、原則として転居前に加入していた介護保険の被保険者資格を喪失し、新たに転居先の市町村が実施する介護保険の被保険者となります。
ただし、一定の施設への入所に伴い住所を変更した場合には、「住所地特例」という例外的な取り扱いがなされ、入所前の住所地の市町村で引き続き被保険者となります。
対象施設入所後に再び他の市町村にある対象施設に入所し、対象施設所在地に順次住所を移動した場合も、継続して最初の対象施設に入所する前の住所地の市町村の被保険者となります。
これは、住所地特例の対象となる施設は介護等の生活サポートを行う施設であることから、原則的な取り扱いを貫くと、施設所在地の市町村に介護保険給付費の負担が偏る蓋然性が高いからであり、ひいてはそのことが原因で施設の整備が円滑に進まなくなることを防止する必要があるからです。
なお、国民健康保険や後期高齢者医療制度でも、同様の住所地特例が設けられています。
それでは、次に、住所地特例の対象施設や給付の取り扱いについてみてみましょう。
次回に続きます。
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