認知症と睡眠
前回の「認知症に備える」の第二弾の内容を、一部抜粋してご紹介いたします。
1.睡眠障害
睡眠は年齢とともに変化し、年を重ねるほど、睡眠の量や質が変化します。例えば、深い睡眠が減少したり、日中に眠気が生じたり、夜中に目が覚めたり、早朝に目が覚めたりします。さらにさまざまな要因によって睡眠障害が生じ、睡眠の量や質が悪化します。夜間頻尿、痛み、痒み、呼吸困難など睡眠障害を誘発しやすい身体疾患を持っていると、睡眠障害が起こりやすくなります。また、うつ病などの精神疾患やレム睡眠行動障害、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群、ナルコレブシーと呼ばれる疾患によっても睡眠障害は生じます。レム睡眠行動障害では、睡眠中に大声をあげたり、手足を動かしたり、歩き回る行動を認め、睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まってしまい、日中に過激な眠気が生じます。レストレスレッグス症候群では、足がむずむずして眠れなくなったり、笑う・怒る・驚くなどの強い感情に伴って力が抜けてしまったり、金縛りにあったり、日中の過度な眠気が生じます。
2.睡眠障害と認知症との関係
睡眠障害や抑うつ症状などの精神症状は認知症発症の危険性を高めるのではないかと考えられています。軽度認知障害は認知症の診断基準は満たさないが、認知機能障害を軽度認めており、認知症の前駆段階と考えられています。軽度認知障害の人で精神症状を認める場合、さらに認知症に移行しやすくなるといわれており、軽度認知障害だと認知症移行率は年間約12%ですが、精神症状を認める軽度認知障害だと25%にまで上昇すると報告されています。
このように、精神症状を認めていると認知症に移行しやすく、また、認知症の前駆段階で精神症状や行動障害が出現することもあり、軽度行動障害と呼ばれる懸念が提唱されています。高齢で発症した精神症状の場合、認知症の初期症状の可能性があり、軽度行動障害の可能性も考えて対応するのは重要になります。京都府立医科大学付属病院の精神科外来を受診した50歳以上の人を対象とした調査では、全体の3.5%が軽度行動障害の診断基準を満たしていました。そして、軽度行動障害だと約8倍、精神症状を認めない軽度認知障害だと約7倍、認知症を発症する危険性を高めていました。認知症の前段階として、認知機能障害を認めるのが軽度認知障害、精神・行動障害を認めるのが、軽度行動障害ということになり、どちらも認知症に移行する可能性があるため、慎重な経過観察が必要になります。
近年、睡眠障害がアルツハイマー型認知症の発症に関与しているのではないかといわれています。
その機序としては、睡眠障害によってグリンパティックシステムと呼ばれるものが障害されることによると考えられています。全身にはリンパ管があり、老廃物の除去などの役割がありますが、脳にはリンパ管が存在していません。その代わりに、グリンパティックシステムによって老廃物の除去を行っています。グリンパティックとは脳の細胞であるグリア細胞とリンパとを合わせた造語です。脳の動脈壁に沿って脳脊髄液は脳の中に入り、グリア細胞の間を通り、その後、静脈壁に沿って流れていきます。このグリア細胞の間を通る際に、脳の中の老廃物も一緒に流して、脳の外に排泄するということになります。
アルツハイマー型認知症ではアミロイドβと呼ばれる異常タンパクが脳に蓄積して脳の細胞が障害されるのですが、アミロイドβもこのグリンパティックシステムによって脳の外に排泄されています。そして、睡眠がこのグリンパティックシステムに関係しています。睡眠によってアミロイドβの排泄が促進されますが、睡眠障害によってグリンパティックシステムの障害が生じ、アミロイドβの排泄ができなくなり、脳内にアミロイドβが蓄積されると考えられています。そのため、睡眠障害があるとアルツハイマー型認知症の危険性が高まります。
実際に日本で行われた調査でも、睡眠時間が5時間未満もしくが10時間以上だと認知症になる危険性が約2倍高まると報告されています。睡眠障害があると認知症になる可能性が高まるため、認知症予防のために睡眠障害を予防・治療することが大事になります。
認知症における睡眠障害の原因はまだ不明なところが多いです。メラトニンは松果体と呼ばれる脳領域から分泌され、睡眠促進作用や昼夜のリズムを調整する作用があります。そのため、メラトニンの分泌低下により睡眠障害が生じます。メラトニンは日中に太陽の光を浴びると分泌量が減り、夜暗くなると分泌量が増え、睡眠を促進します。そのため、日中は外出したり、カーテンを開けて日光を室内に入れるなどして、光を浴び、夜寝るときは部屋を暗くするなど、規則正しい生活をすることによってメラトニン分泌も規則正しくなり、良い睡眠がとれるようになります。このような規則正しい生活をすることが、睡眠障害やアルツハイマー型認知症の予防につながるかもしれません。
レム睡眠行動障害はレビー小体型認知症の一つの症状として注目されています。
レム睡眠の時に夢を見ますが、本来レム睡眠中は筋肉が弛緩しており、体が動かないようになっています。しかし、レム睡眠行動障害の方では、レム睡眠中も筋肉の弛緩は起こらず、体を動かせることができるため、夢の中での行動がそのまま異常行動となって現れることがあります。異常行動を認めている時に覚醒させることが容易であり、覚醒直後より疎通性は良好で、異常行動の内容と一致した夢内容を想起できるのも特徴です。このレム睡眠行動障害はレビー小体型認知症の可能性も考えて検査が必要になります。また、レビー小体型認知症ではアルツハイマー型認知症よりも睡眠障害を生じやすいといわれています。
認知症患者では、せん妄と呼ばれる症状が生じることも多いです。せん妄とは、意識障害によって意識の清明度が著しく変動し、注意、思考、知覚に影響が生じ、夢の中にいるように周囲の世界を知覚しています。そして、妄想や幻覚が生じる傾向にあります。せん妄は夜間に生じることが多く、家族も対応に困ることが多いです。また、認知症の人は夕方、特に日没頃の時間帯から精神症状が悪化することが多く、そのような現象を夕暮れ症候群といいます。この夕暮れ症候群もせん妄によって生じていることが多いです。せん妄は睡眠・覚醒リズムの障害によって生じているところもあるため、治療としては日中起きて夜寝るようにして睡眠・覚醒リズムを改善させることになります。そのため、日中になるべく刺激を与えたり、太陽の光を浴びたりするようにします。
4.睡眠障害の治療・予防
睡眠障害の治療としては、睡眠の質を改善するために、睡眠に関する適切な知識を持ち、生活を改善することが必要です。
高齢者では「眠れない」と訴えることが多いですが、よく聞くと「若い頃と比べて眠れない」、「以前は7時間眠れたが今は5時間しか眠れない」などと話すことがあります。年齢とともに睡眠の量と質は低下しますが、年を重ねると必要な睡眠時間は短くなりますので、そのことを受け入れ、年齢にあった睡眠時間を目標にした方が良いです。
睡眠障害に対しては予防も大切です。
日中、太陽の光を浴びることはより良い睡眠につながります。規則正しい食生活、就寝前の水分・カフェイン・アルコールの摂取や喫煙を控えることはもちろん、快適な寝室環境を作ったり、眠る前に軽い読書、音楽、ぬるま湯での入浴、香など自分自身がリラックスできる事をしたりするなどの工夫も大事です。
寝つけないまま床の中にいると、いろいろ考えてしまって余計に眠れなくなるため、眠くなってから床につくようにした方がよいでしょう。また、眠る以外の目的で床の中で過ごさず、眠る時だけ床の中に入るようにする方がよいです。眠れない場合でも朝は同じ時刻に毎日起床するよう心掛けた方がよく、睡眠時間にこだわらず、日中の眠気で困らなければ短くても十分です。
私個人としましては、大変耳の痛い内容です。
どうも、夜は珈琲などを飲んでくつろぎ、なかなか寝ません。気が付くととんでもない時間になっています。
ですので、一瞬のうちに眠れるのは良いのですが。お昼ご飯の時間もバラバラ。
規則正しい生活。今日から始めて、健康長生きをめざしましょう。
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