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人生100年時代を考える③

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人生100年時代を考える③

1.金融

 

 「資産寿命」、すなわち、資産をいかに終身にわたり延伸するかが重要な論点となります。20世紀には乳幼児死亡率の低下、次いで長寿化による平均寿命(生命寿命)の延伸が、世界各地で実現してきました。21世紀に入ると「健康寿命」、すなわち医療・介護に継続的に依存せず自立した生活を営める状態を延ばすことの重要性が広く認識されるようになっています。資産寿命は、健康面に加えて金融面でも、自立した状態を可能な限り維持しようとすることです。金融面でのウェルビーイング(幸福)は、健康と同様に生活の質に大きな影響を及ぼし得るものであり、健康寿命と資産寿命は相互に関連するともいわれます。

 

2.高齢社会の金融問題を包括的に捉える

 

 少子高齢化の進行と自助努力による老後の備えの必要性は、日本の経済・社会における喫緊の課題として既に指摘されてきたことです。社会保障給付費を社会保険料で賄いきれないない状況が常態化しており、不足額は増える一方です。GDPの200%を超える政府の債務の下では一般会計からの補填には限界があり、社会保障制度の持続可能性を向上させるには給付抑制が必須となります。従って、より多くの個人・家計において、現役時代の資産形成と、引退後の資産管理の両方の必要性が増大します。

 

3.低金利の下での資産管理

 

 伝統的には、引退後の資産管理は現役時代にも増してリスクを抑えることが適切と考えられてきたといえます。しかしながら、容易に解消されそうにない低金利という現実も直視しなければなりません。より多くの個人にとって、資産寿命を延ばすために、貯蓄に加えて長期分散投資を実践する必要性が増すといえるでしょう。想定外の資産枯渇を回避するためには「運用しながら取り崩す」ことが、富裕層ではなく一般の個人・家計にとっても必要なことになっていくのです。

 日本の退職給付制度で最も普及しているのは、退職一時金です。厚生労働省の調査対象全体の91.4%が退職一時金制度を導入していました。企業年金は26.7%が導入していましたが、こちらの制度においても、一時金受取りを選択可能なのが一般的です。退職時にまとまった資金を受け取り、引退後管理していくこと自体は新しいテーマではありませんが、社会・経済環境が大きく変化している以上、それに見合う形で管理方法も変化しなければならないということです。

 

4.後代にベビーブームのない団塊ジュニア世代

 

 もう一点、留意すべき事項があります。1971~74年生まれの、いわゆる団塊ジュニア世代は、自分たちよりも若い世代に支えてくれる次のベビーブームが存在しません。自分たちの老後のために備える余地がまだあります。人生100年時代の金融サービスを議論し、必要な施策を講ずるに当たって、いま、このタイミングを逃すわけにはいかないのです。

 

5.金融機関の取り組み

 

 金融サービス業界においては、既に新商品・サービスの投入が始まっています。

 

(1)長寿リスク対応

 

 自分の寿命が不確定であることは、「長生きリスク」「長寿リスク」とも表現されます。保険業界からは、このリスク対応にフォーカスした個人終身年金が投入されています。一般の個人年金との違いは、加入者の死亡時の払戻金が低く設定されていることです。払い戻されなかった分が、長生きする加入者の給付に回される格好です。

 長寿で低金利の日本では組成が難しい商品といえますが、長寿リスクのヘッジは引退後の資産管理において極めて重要な要素です。その対応商品が登場したことは、有意義と考えられます。もっとも、この保険の特徴について個人の理解を得るのは容易ではないという指摘もあります。目的は寿命の不確実性に対する保障なので、払込保険料分を取り戻すことができるかどうかで損得を判ずるのは適当ではないのですが、貯蓄性商品と分けて捉えるのは難しいようです。

 

(2)運用・取り崩しのベースメーキング

 

 個人・家計が、長期分散投資を行いつつ、資産の取り崩しを行うのをサポートするような金融商品・サービスも投入されています。保険のような保障機能は伴わないものの、一定の前提の下で合理的に運用と取り崩しを実践します。

 例えば、退職者のニーズを念頭に分配金を設計し、可能な限り安定的な形で払い出す投資信託が登場しています。従前も、毎月分配型信託を含む、分配重視の投資信託は存在しました。が、退職後のインカム補完のための分配という目的を明確に打ち出している点が最大の違いです。

 投資信託をあらかじめ指定した金額や口数分だけ、定期的に換金して払い出すサービスもあります。また、ファンドラップやSMAのような投資口座は、本来的に個人のライフプランに基づく資産運用に適した金融サービスですが、ここでも口座資産の定期的な取り崩しサービスが登場しています。

 

(3)資産の保全

 

 高齢者の認知機能低下に備えた資産保全策についても、新たな動きが見られます。

 基本的に、認知症と診断されたら本人に財産管理能力がなくなりますので、家族等が裁判所に要請して成年後見人を選定してもらうことになります。成年後見人は本人に代わり、資産を管理します。また、後見制度支援信託という制度が2012年に導入されており、日常的に必要な資金を除いて、信託銀行等に金銭信託の形で預けることもできます。残念のことですが、後見人による資産の不正利用という事件も発生しており、一定以上の資産を有する場合などは、後見制度支援信託の利用が勧められるようです。

 同信託の目的は、厳格な資産保全です。金銭信託なので分散投資のような考え方も適用できません。当人のためにまとまった資金を引き出そうとしても家庭裁判所の指示書が必要なので時間がかかるなど、使い勝手の面で課題が大きいとされています。そのため、「家族信託」を呼ばれる民事信託も登場しています。当人があらかじめ決められた形で親族に財産管理を託する仕組みで、より柔軟な管理が可能になります。

 信託の使い方としては、次世代への資産承継もあり、教育資金総与信宅のような制度も用意されています。ただ、資産寿命延伸の観点からは、まずは自身の生命寿命との一致を確保し、その上で次世代の考慮というロジックになるでしょう。

 

(4)取りまとめ役に対するニーズ

 

 これらをいかに各人のライフプランに合致するような形で組み合わせるのか、という極めて大きな課題が依然として残されています。

例えば、運用しながら取り崩すための投資信託と長寿保険を上手く組み合わせれば、資産寿命の延伸という目的を果たせるかもしれません。しかし、両者にどのくらいずつ資金を配分すれば良いのか、何歳の時点で行動を起こせば良いのか、定時定額のような時間分配を行うべきなのか、といったことを決めなければなりません。認知機能低下は誰にでも起こり得ることを踏まえれば、事前に計画を整えておくことが重要です。

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